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東京高等裁判所 平成4年(行コ)146号 判決

控訴人(原告) 幸野堯 外五六名

被控訴人(被告) 本多良雄

主文

一  原判決主文第二項中控訴人中田一夫、同中山薫、同北爪秀信及び同森田成也の請求に関する部分を取り消し、右部分に関する同控訴人らの訴えを却下する。

二  控訴人らのその余の本件控訴をいずれも棄却する。

三  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一申立て

一  控訴人ら(原審原告であった控訴人小峰ヒロ、同中山喜久夫、同中田一夫、同中山薫、同北爪秀信及び同森田成也は原判決に対し控訴状を提出していないが、必要的共同訴訟の法理により右の者らも控訴人となったものである。)

1  原判決を取り消す。

2  原判決主文第一項の却下に係る訴えに関する部分を東京地方裁判所に差し戻す。

3  被控訴人は、東京都国分寺市に対し、金六億二五二四万〇三七六円及びこれに対する平成三年一月一三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二当事者の主張及び証拠

原判決事実摘示のとおりである(ただし、原判決一九枚目表二行目の「丙土地」を「丁土地」と、同二一枚目表八行目の「甲土地」を「乙土地及び丙土地」と改める。)から、これを引用する。

理由

一  記録によれば、控訴人中田一夫、同中山薫、同北爪秀信及び同森田成也は当審の口頭弁論終結以前にいずれも国分寺市の住民ではなくなったことが認められる。したがって、同控訴人らの本件訴えはいずれも原告適格を欠き、不適法であるから、却下すべきである。

二  当裁判所も、右控訴人らを除くその余の控訴人ら(以下「その余の控訴人ら」という。)の請求のうち、公社による売渡した関する損害賠償請求に係る訴えは住民訴訟の対象とならない被控訴人の行為について損害賠償を求めるものであるから不適法であり、市による売渡しに関する損害賠償請求は右売渡しが違法であるとは認められないから失当であると判断する。その理由は、次のように付加、訂正するほかは、原判決理由のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二八枚目表六行目の「右主張を前提として」を「国分寺市土地開発公社と国分寺市との間では人的、物的一体性が強度であり、被控訴人の実質的な支配権が同公社に及んでいたものであって」と改め、同九行目から同二九枚目表二行目までを次のとおり改める。

「いわゆる法人格否認の法理は、社団法人である会社について、会社という法形態を採っているものの、会社としての法人格が全くの形骸にすぎないか、又は、法律の適用を回避するために濫用されているような場合においては、法人格というものの本来の目的に照らして許すべきものでなく、取引の相手方においてその法人格を否認することができるとするものである。

しかし、土地開発公社は、会社のように何人でも準則によって容易に設立し得るものとは異なり、公有地拡大法に基づき、地方公共団体に代わって土地の先行取得を行なうこと等を目的として(同法一条)、地方公共団体がその議会の議決を経て定款を定め、主務大臣又は都道府県知事の認可を受けて設立するものであり(同法一〇条)、設立団体である地方公共団体とは別個の法人とされている(同法一一条)公法人であって、土地開発公社に出資できるのは地方公共団体に限られており(同法一三条一項)、また、同法により、毎事業年度、予算、事業計画を作成し、当該事業年度の開始前に、設立団体の長の承認を受けなければならず、これを変更しようとするときも同様とされ、毎事業年度の終了後二箇月以内に、財産目録、貸借対照表、損益計算書及び事業報告書を作成し、監事の意見を付けて設立団体の長に提出しなければならないとされており(同法一八条二、三項)、設立団体の長、主務大臣又は都道府県知事からその業務及び資産の状況につき監督を受け(同法一八条)、その他その財務及び会計につき同法及び主務省令に規定が置かれているほか、地方公共団体は土地開発公社の債務について保証契約をすることができるものとされている(同法二五条)ものである。

そして、成立に争いのない甲第一八号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第八、第九号証、原審証人伊東豊、同福島弘の証言によれば、平成二年三月三一日当時、国分寺市土地開発公社の理事長は同市の助役、他の七名の理事は同市の収入役、部長及び課長、監事二名は同市議会議員及び学識経験者であり、職員二六名も同市の職員であったこと、国分寺市の職員である右役員及び職員は同市からの給与の支払を受けているのみで、同公社からは報酬、給与の支払を受けていなかったこと、国分寺市土地開発公社の事務所は国分寺市役所内に置かれていることが認められる。

しかし、公有地拡大法自体、地方公共団体の長がその管理に係る建物等を無償で土地開発公社の利用に供すること及び地方公共団体の職員が土地開発公社の役員となることを認めている(同法二六条)のみならず、土地開発公社は、元来、公有地拡大法が地方公共団体に代わって土地の先行取得を行なうことを目的として創設した制度であるから、土地開発公社と設立団体である地方公共団体が人的、物的にも、業務遂行の上でも密接な関係にあるということは、公有地拡大法が土地開発公社に法人格を付与した目的に何ら反するものではないというべきであり、これをもって、国分寺市土地開発公社の法人格が形骸にすぎず、又は、法人格の濫用の場合に当たるというようなことがいえるものでないことは明らかである。

そして、前記のような土地開発公社の目的、性格及び公有地拡大法の諸規定からすれば、土地開発公社について、その公社としての法人格が形骸にすぎず又は法人格の濫用の場合に当たり、公社としての法人格を認めることは法人格付与の本来の目的に照らして許すべきでないものとしてその法人格の否認を認めるのが相当な場合があるとは到底考えられないというべきである。いわゆる法人格否認の法理は、前記のとおり、会社という形態がいわば単なるわら人形にすぎない場合に取引の相手方を保護しようとするものであり、相手方保護の場面で妥当するものである。公社による売渡しについて法人格否認の法理を援用する控訴人らの主張は、取引の相手方の保護ではなく、全く別個の地方公共団体の財政行為に対する民主的統制の見地からの必要を理由とするものであるが、右(一)に判示したとおり、公有地拡大法上、設立団体の長の土地開発公社の業務に対する監督、関与については、設立団体の住民は、地方自治法の定める直接請求による以外には、長に対する政治的批判を通じてこれを統制するほかはなく、そのような制度も優に憲法九二条に適合すると解されることからすると、控訴人ら主張のような必要性を理由として、土地開発公社の法人格を否認することは認められないというべきである。(加えて、公社による売渡しについて被控訴人が地方自治法二三七条二項等の法令による規制を潜脱する目的で国分寺市土地開発公社から直接私人に対する売渡しをしたものであることを認めるに足りる証拠は全く存しない。)

したがって、公社による売渡しについて、国分寺市土地開発公社の法人格が否認されるべきであるとする控訴人らの主張は理由がない。」

2  原判決三一枚目裏末行の「市による売渡し」の前に「国分寺市は、本件再開発事業を推進するため、前記のとおり、平成二年三月一五日澤田幹雄から丁土地を代金四億〇五〇八万円で買い受け、同月三〇日同人に対し甲土地を代金八四五九万九六二四円で売り渡したほか、同月一五日中嶋俊之から東京都国分寺市本町三丁目二七二二番一二宅地七・九四平方メートルを代金四一二八万八〇〇〇円で、同番一三宅地九二平方メートルを代金三億五一八〇万八〇〇〇円で買い受け(以下、併せて「中嶋からの買受け」という。)同月二二日同人に対し同市本多三丁目七六番一五宅地三三〇・五八平方メートルを代金二億一五六一万〇八八七円で売り渡した(以下「中嶋への売渡し」という。)が、」を、同行の「歳入は」の次に「中嶋への売渡しと一括して」を、同三二枚目表一行目の「歳出は」の次に「中嶋からの買受けと一括して」を加える。

3  原判決三二枚目裏六行目の「同委員会は」から同八行目の「費やされた」までを「同委員会では、約四時間にわたって市による売渡し、市による買受け、中嶋への売渡し及び中嶋からの買受けに相当する売買(以下「本件各売買」という。)に関する歳入歳出についての質疑、討論が行われた」と、同九行目の「市による売渡し及び市による買受け」を「本件各売買」と改め、同一〇行目の「市による売渡し」の次に「及び中嶋への売渡し」を、同三三枚目表二行目の「市による買受け」の次に「及び中嶋からの買受け」を加え、同六行目の「「買う八億円」から同七行目の「判断である」旨」までを「市による買受け及び中嶋からの買受けにおいて国分寺市が購入する用地は駅前広場の中央に位置しており、八億円の価格も所有者の言い値ではなく、かなり配慮してもらった金額であり、本件各売買の代金額は、相手方の意向との相関関係や、今後の重要性にかんがみての総体的な判断で決定したものである旨」と改め、同三三枚目裏三行目の「目下自転車置場として使用されている土地」の前に「女子ハイツの裏側の」を、同五行目の「答弁は、」の次に「中嶋への売渡し及び中嶋からの買受けと共に」を、同六行目の末尾に「以上の質疑、討論において、本件各売買の対象地の地番及び相手方の氏名こそ明らかにされなかったものの、国分寺市が買い受ける土地は一か所が九九・九四平方メートル(中嶋からの買受けの対象地に相当する。)、他の一か所が七七・九平方メートル(丁土地に相当する。)で合計一七七・八四平方メートルであり、これらの土地を約八億円で購入し、その代替地として同市本多三丁目の土地三三〇・五八平方メートル(中嶋への売渡しの対象地に相当する。)を約二億一五〇〇万円で、同市本町四丁目の土地一五七・六四平方メートル(甲土地に相当する。)を約八五〇〇万円で売り払う予定であることが明らかにされ、特に右の売渡代金の額及びその決定の仕方の相当性を巡って審査が行われた。」を加える。

4  原判決三三枚目裏一〇行目及び同三四枚目表一行目の「市による売渡し」の次に「及び中嶋への売渡し」を、同六行目の「市による」から同七行目までを「主として本件各売買を巡る財政上の問題点について行われたものであった」と、同九行目の「歳入項目が」の次に「中嶋への売渡しと併せて」を加え、同裏一行目の「表明された上で、売渡しに係る土地」を「表明され、また、市による売渡し及び中嶋への売渡しに係る土地」と改め、同二行目から三行目にかけての「明らかとなるに至ったものであって、」を「明らかにされた上で、右代金の額及びその決定の仕方の当否及び問題点についての審査、審議がされたものであること、」を、同九行目の「された以上、」の次に「本件通達第二の二エの趣旨を考慮しても、」を加える。

5  原判決三五枚目裏四行目の「事件」を「議案」と、同九行目の「事件」を「当該議案」と改める。

三  以上の次第で、控訴人中田一夫、同中山薫、同北爪秀信、同森田成也の訴えはいずれも却下すべきであるから、原判決主文第二項中同控訴人らの請求に関する部分は失当であるが、控訴人らの公社による売渡しに関する損害賠償請求に係る訴えを却下し、その余の控訴人らの請求に関して市による売渡しに関する損害賠償請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないから、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九六条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 菊池信男 村田長生 伊藤剛)

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